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「座りすぎ」による弊害と「社員の生活習慣づくり」
デスクワークに伴う長時間の座りっぱなしは、社員一人ひとりに見過ごせない心身への弊害のリスクをもたらすとともに、企業にとっては社員の生産性の低下による経済的な損失につながることを直視して適切な対策を講じていくことが必要なテーマです。
この記事では、座りすぎの弊害のリスクと、生産性の向上につなげるための対策について、データや実際の事例を交えてご紹介していきます。
日本は座位時間が最長の国
世界20カ国を対象にした1日に座っている時間の調査(*1,*2)によると、日本はサウジアラビアとならび、1日7時間(420分)も座っている「座位時間最長の国」です。
(注)グラフに示した座位時間は中央値。上位25%の座位時間では、日本は1日600分(10時間)に及び、サウジアラビアを上回り単独1位。
座りすぎることによって、心身にさまざまな弊害が現れることがわかっています。私たちは、座りすぎによるリスクをきちんと理解して適切な対策を取る必要性が最も高い国=日本に住んでいることを、まず、認識しましょう。
身体への弊害
コクヨ株式会社が実施したアンケート調査(*3) によると、オフィスワーカーの約9割が勤務時間中に身体の不調を感じたことがあると答えています。不調の内訳は、「肩コリ」が1位、「首コリ」が2位、「眼精疲労」が3位、「腰痛」が4位と続きます。
パソコンの作業時には、自然と頭が前に出た姿勢になり、首や肩に負担がかかることで、肩コリ・首コリを引き起こします。
この姿勢は、ストレートネックの一因になるとともに、背中から腰の筋肉にも負担をかけます。筋肉の張りが長時間続くと血流が低下し、腰痛を引き起こします(*4)。また、血流が悪くなることによって、脚のむくみや、足首の痛み、冷え性なども引き起こします。
東京大学と日本臓器製薬の試算(*5)によると、これらの不調による「労働生産性の低下」を金額に換算した経済損失は、年6兆円(内訳:肩こりと首回りの不調による損失が約3兆円、腰痛による損失が約3兆円)と言われています。
座りすぎは、個々人に身体的な不調をもたらすと同時に、企業には社員の生産性の低下という経済的な損失をもたらします。
<生活習慣病リスク>
長時間座りすぎることで、身体の代謝が低下し、脂肪が燃焼しづらくなるため、生活習慣病のリスクが高まることが指摘されています。
特に、2型糖尿病や高血圧、心臓病などのリスクが高まる(*6,*7)とされています。また、長時間座りすぎることで、血糖値が上昇しやすくなるため、糖尿病の発症リスクも高まることもあります。
WHOでは、座りすぎは「世界で年間200万人の死因になる」という警鐘を発表(*8)しています。喫煙による死亡が500万人超、飲酒による死亡が300万人超であることと比べても、座りすぎによるリスクは、軽々しく考えてはいけない問題と言えます。
心への弊害
座りっぱなしでいると、身体だけでなく心にも悪影響が出ることがあります。座りっぱなしで運動不足になると、ストレスがたまりやすくなります。また、運動不足による体調不良が長期間続くと、うつ病や不眠症などの精神的な病気を引き起こすことがあります。
明治安田厚生事業団体力医学研究所の調査(*9)によると、1日12時間以上座っている人は、6時間未満の人と比べて、気分・不安障害などのメンタルヘルスに罹患する確率が約3倍高まると指摘しています。
企業が率先する社員の生活習慣改善
長時間座りすぎることによって生じる健康上のリスクを軽減するためには、一人ひとりが注意することはもちろんですが、企業として社員の健康的な生活習慣改善に積極的に取り組むことが求められます。以下に、企業が率先して実践できる「社員の生活習慣改善」について紹介します。
就業時間中に定期的に運動する習慣を取り入れる
長時間座りすぎることが健康に悪影響を与えることは、すでに説明した通りです。そのため、社員が就業時間中に定期的に運動する習慣を取り入れることが大切です。
たとえば、1時間に1回、5分間程度立ち上がることを心がけるとよいでしょう。また、長時間座っている場合には、ストレッチをすることもおすすめです。ストレッチをすることで、身体をリラックスさせることができます。
明治安田健康開発財団の健康増進支援センターでは、毎正時に音楽に合わせてデスクまわりを歩く活動を実施しています。また、明治安田オフィスパートナーズ株式会社では毎日3回、1回3分間、部署全員で立ち上がりストレッチなどをする機会を設けています。
海外の事例としては、「SMArt Workプロジェクト 」(*10)というプロジェクトを紹介します。SMArt Workプロジェクトは、イギリスのレスター大学が12ヶ月にわたって実施した、オフィスワーカーの座っている時間を減らすことを目的とした研究です。
このプログラムでは、ポスターによる啓蒙、立つ・座るを切り替えられるデスクの導入、座っている時間をチェックして立ち上がるように促すシートクッションの導入などに取り組んでいます。実施しなかったグループと比較すると、83分も座っている時間を短縮でき、仕事のパフォーマンスや疲労、日常の不安や生活の質にまで改善が見られています。
積極的に歩くことを習慣づける
チームで歩くことを奨励することも重要です。歩数計などを使ってチーム対抗で合計歩数を競い合う事例を聞いたことがある方も多いと思います。通勤時に1駅手前から歩くことを奨励するキャンペーンもありますね。
スポーツ庁では、『まずは1日あたりプラス10分のウォーキング』(*11)を推奨しています。10分程度であれば、通勤・帰宅時間を活用すれば取り組めそうな気がしませんか。
また、朝日を浴びながら運動するとセロトニンが分泌されます。セロトニンは別名「幸せホルモン」とも呼ばれ、精神的な落ち着きが得られると言われています。夜になるとセロトニンは「メラトニン」に変化し、スムーズな睡眠に影響します。
健康的な食事と水分補給を習慣づける
長時間座りすぎることが肥満や生活習慣病のリスクを高めることがあるため、健康的な食事を心がけることも重要です。
体脂肪計メーカーのタニタの社員食堂では、1食500kcal前後で塩分量は3g以下に抑えながらも、野菜をたっぷり使ったり、噛みごたえを残した調理をしたりすることで満腹感が得られるヘルシーなメニューを提供しています。
社員食堂がない企業においても、社員の食生活改善のために、栄養教育などを行うことも大切です。
また、小まめな水分補給も大切です。座りすぎによって筋肉を使わないことによる血流悪化が生じることがあります。水分不足が血流悪化の原因の一つとなるため、こまめな水分補給を心がけましょう。ただし、飲み物は糖分を含まない水やお茶などがおススメです。
まとめ
本記事では、「座りすぎ」の弊害を理解し、適切な対策を取るためのポイントを、データや事例を交えて紹介しました。
企業が取り組むべき施策は、以下の3点に集約できます。
① 労働安全衛生のルールを徹底しましょう。
パソコン作業に伴う健康と安全の確保を目的とする「情報機器作業における労働衛生管理基準(旧「VDT作業における労働衛生管理基準」を改定)」を再確認しましょう。
パソコン作業における机や椅子の高さの調整方法や、小休止の必要性についてまとめられています。知っていることも多いと思いますが、実際に実践していることが大切です。
<厚生労働省・労働基準監督署:「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」はコチラへ>
② 座りっぱなしの時間を減らす工夫をしましょう。
定期的に立ち上がるためのリマインダーとして、1時間ごとにオフィス内に音楽を流すことや、会議室などにスタンディングデスクを導入することで座りっぱなしの時間そのものを減らすといったオフィス環境の見直しも必要です。
③ ストレッチなどのエクササイズを取り入れましょう。
通勤時間のウォーキングやオフィスのフロア間の移動に階段を使うといった社員の自主性を促すキャンペーンに留まらずに、会社の施策としてデスクワークの合間にストレッチなどのエクササイズを取り入れることで、座りすぎによる弊害リスクを防ぐことが大切です。
【NOSTからのメッセージ】
今回の記事はいかがでしたでしょうか?
一人では続かないことも、時間を決めてチームで取り組むと楽しく習慣化できます。
企業にとって、座りすぎの改善は社員の健康を守る責務であると同時に、生産性低下による損失を回避するための合理的な経営判断でもあります。
社員の健康づくりに積極的に取り組むことが、生産性の向上につながることを認識して、経営テーマとして戦略的に実践することこそが健康経営です。
NOSTでは、企業への健康経営コンサルティングに加えて、社員のパフォーマンスアップのための各種コンディショニングケアサービスを提供しています。
一例としては、オンラインレッスンは、お客様が指定する時間に社員の皆さまの意見も反映したエクササイズを提供しています。また、オンライン動画は、社員の皆さまがデスクワークの合間の小休止でできる様々なコンディショニングケアの実演を5分程度で紹介しています。
NOSTは、EAST(Easy, Attractive, Social and Timely: 簡単・魅力的・人と人が交わる・必要なときにそこにある)というサービスコンセプトのもと、企業の健康経営と社員の健康管理のためのインフラとなるサービスを提供しています。
<本記事は以下の資料を参照しています>
- The descriptive epidemiology of sitting. A 20-country comparison using the International Physical Activity Questionnaire (IPAQ)
- ニッセイ基礎研究所: 意識したい『座り過ぎ』の問題―健康リスクを下げて、生産性を上げる
- コクヨ株式会社: オフィスワーカーの約 8 割が「姿勢の悪さ」を自覚/デスクワークの姿勢が不調感や生産性低下に影響
- 改定第2版関節機能解剖学に基づく整形外科運動療法ナビゲーション
- 朝日新聞デジタル: 腰痛の経済損失は年3兆円/業務効率低下、東大など試算
- Sedentary time in a nationally representative sample of adults in Japan: Prevalence and sociodemographic correlates
- 座位行動の科学/行動疫学の枠組みの応用
- スポーツ庁: WEB広報マガジンDEPORTARE/日本人の座位時間は世界最長「7」時間!座りすぎが健康リスクを高める あなたは大丈夫?その対策とは
- 明治安田厚生事業団体力医学研究所:日本人勤労者における座位行動とメンタルヘルスの関連
- OHW+: Standing up to sedentary working
- スポーツ庁: WEB広報マガジンDEPORTARE/プラス「10」分のウォーキングから始めるストレス対策」