——【共感編】提出が終わった今こそ、新しい年度の計画を、去年の延長にしない

今年度の健康経営優良法人の申請は、提出期限が近づき、すでに調査票を出し終えた会社も増えてくる時期です。
書き終えたときに、ほっとする。けれども、どこか晴れない。そんな気持ちを抱えている担当者の方は、少なくないのではないでしょうか。
一つひとつの施策に根拠を示して答え、担当者ばかりが汗をかく。作業は終わったのに、社内が動いた実感がない。
健康経営ガイドブック2025では、「100社100通り」の健康経営という考え方が示されました。今年も、その考え方に近づけないまま、同じ作業を繰り返してはいないでしょうか。
今回の連載(2026年9月号)では、この「疲れた」の正体を、担当者の視点から整理します。第1回は、担当者が感じやすい「4つの壁」と、その先にある糸口を取り上げます。
この記事でわかること
- 「疲れた」の正体は、作業量だけでなく、手応えのなさにあること
- 担当者が感じやすい4つの壁と、その根っこにある「100社100通り」の課題
- 悩みを担当者だけで抱えず、会社のテーマにしていく糸口
目次
1. 提出が終わっても、手応えがない。「疲れた」の正体
調査票への回答には、時間と労力がかかります。設問の大枠は大きく変わらないものの、産業保健の分野がより詳しくなったり、社会的なテーマに寄ったりする見直しが続いています。施策一つひとつについて、実施の根拠を示しながら答える負担は、小さくありません。
ただ、担当者の疲れは、作業量だけでは説明できません。
本当に重いのは、手応えのなさではないでしょうか。提出は終わった。しかし、社内の何かが変わった実感はない。経営者の関心が高まったわけでもなく、従業員の行動が変わったわけでもない。そして来年も、同じ時期に、同じ作業が待っています。
調査票への回答を産業保健のメンバーが担うのは、産業保健の施策を中心とした設問の内容を考えれば自然なことで、これからも続きます。問題は、その作業が健康経営のすべてになっていることです。日頃から経営の視点で健康経営に取り組んでいれば、調査票は、その取り組みの一部を確認する機会になります。変えるべきは回答の仕方ではなく、回答の土台となる、健康経営の視座と体制です。
2. 担当者が感じる4つの壁
手応えのなさは、いくつかの壁として現れます。ここでは、当社の見立てとして4つに整理します。
| 壁 | 担当者が感じていること |
|---|---|
| ① 推進体制の壁 | 健康経営が産業保健の持ち場にとどまり、全社の流れにならない |
| ② 経営者の壁 | 経営者に届ける言葉が見つからず、理解や関与につながらない |
| ③ 従業員の壁 | 意識や行動が変わらないまま、取り組みが万年化している |
| ④ 重心の壁 | 課題の中心が、施策の出来栄え(参加者数や参加率など)にとどまり、経営の話になっていない |
① 推進体制の壁
健康経営が担当者の持ち場にとどまり、全社の流れになりません。経営層、人事、各部門が関わる形になっておらず、担当者が一人で抱え込む状態です。
② 経営者の壁
経営者の理解や関与が得られない、と感じている担当者は多いと思います。ただ、これは経営者に関心がないというより、経営者に届ける言葉が見つからない、という翻訳の課題として捉えられます。調査票に回答した産業保健の話ではなく、経営方針の話として語れているか。そこが分かれ目です。
③ 従業員の壁
毎年同じ形の施策が続き、参加を呼びかけても、従業員の意識や行動が変わらないまま、取り組みが万年化していきます。呼びかけが続くほど、受け取る側も慣れてしまいます。これは従業員の側の問題ではなく、取り組みの届け方の問題です。
④ 重心の壁
課題の中心が、健康管理や施策の出来栄え(参加者数や参加率)にとどまり、経営の目標の話になっていません。調査票の設問には産業保健の施策に関するものが多く、回答も産業保健のメンバーが担うことが多いため、取り組みの重心は自然とそちらに寄ります。産業保健は守りの土台として欠かせません。ただし、健康経営は健康管理と同じではありません。
3. 「100社100通り」は、実践できているか
健康経営ガイドブック2025では、「100社100通り」の健康経営という考え方が示されました。経営方針は会社ごとに違うのだから、健康経営も会社ごとに違うはずだ、という考え方です。
当社は、この言葉が出てきた背景に、産業保健の取り組みだけを積み上げると、どの会社も似た形になりやすい、という問題意識があると捉えています。
では、自社らしい健康経営とは何でしょうか。自社の経営方針から導いた、健康経営の推進方針・目標・KGI(目標の達成度を測る指標)がある状態です。これらは、毎年つくり直すものではありません。当社は、KGIを、3〜5年かけて達成をめざす中長期の指標として捉えています。毎年のレビューで妥当性を確認しながら、腰を据えて取り組むものです。
毎年見直すのは、KGIに近づくための施策です。年度ごとに、計画し、実行し、評価して、改善する。このPDCAを回しながら、KGIに近づいていきます。
ところが、当社の見立てでは、多くの会社で注目が集まるのは、施策そのものです。どうすれば参加率が上がるか、参加者が増えるか。そこに力が注がれ、「その施策は、KGIに近づいているか」という問いが、後回しになりやすくなります。参加率を高める工夫は大切です。ただ、それだけを見ていると、疲れは積み上がっても、手応えは生まれません。
そして、経営方針から推進方針・目標・KGIを描くことは、担当者だけで片づけられるものではありません。担当者の悩みを、個人の悩みで終わらせず、会社のテーマにしていく必要があります。
皆さんの会社でも、同じように感じていませんか。同じ壁を感じている人は、同じ立場に、たくさんいます。悩みを持ち寄り、「100社100通り」の健康経営を、経営層に働きかけていく。それが、解決の糸口です。
回答するだけの健康経営を、卒業する。調査票を書くことをやめるのではなく、調査票への回答だけで終わらせない、という選択です。この連載では、その選択肢を示していきます。
4. まとめ:悩みを、会社のテーマに変える
疲れを感じるのは、本気で取り組んできたからこそです。
4月始まりや1月始まりの会社では、これから新しい年度の計画を立てる時期を迎えます。ここが、働きかける最初の機会です。計画の前に、経営方針から導いた推進方針・目標・KGIを、一度きちんと描く。そこから始めれば、来年の手応えは変わります。何も変えなければ、来年も同じ繰り返しになります。
疲れは、変えるためのエネルギーです。
【次回のブログでは】
なぜ、経営方針から導かれた推進方針・目標・KGIが、なかなか出てこないのでしょうか。次回は【構造編】として、4つの壁に共通する根っこを読み解きます。努力不足ではなく、仕組みの問題として捉え直すと、担当者が一人で背負わなくてよい道が見えてきます。
<Let us hear from you>
あなたの会社では、①〜④のどの壁を、一番強く感じていますか。番号と、感じていることを、お問い合わせからお知らせください。
橘田 孝(ノストライフ株式会社 代表)。制御機器メーカーで35年にわたり、経営企画、M&A、人材戦略などを担当。経営者や経営企画の視点から、各社の経営方針を実現する健康経営の伴走支援を行っています。