——【基本形編】経営方針から描く『健康経営戦略フロー図』と、『健康風土醸成ロードマップ』の使い方

前回は、多くの会社が「経営層」と「産業保健チーム」の2層で回っていること、そして役割を4層に分けると、経営者が動き出す余地が生まれることをお伝えしました(第1回)。
新しく加わる第2層の風土改革チームは、何をもとに、どう動くのでしょうか。今回は【基本形編】として、経営方針から描く設計図と、それを回す仕組みを、2つの会社の考え方でご紹介します。
この記事でわかること
- 『健康経営戦略フロー図』(ガイドブックでいう戦略マップ)の7つの要素と、健康風土の捉え方
- A社の経営方針から健康経営への置き換えと、B社の「回す」仕組み
- 『健康風土醸成ロードマップ』の使い方
目次
1. 健康経営戦略フロー図の7つの要素と、健康風土
『健康経営戦略フロー図』(ガイドブックでいう戦略マップ)は、経営方針から健康経営を描く設計図です。左右2つの流れが、中央のKGIで出会います。

| 流れ | 要素 |
|---|---|
| 左側:バックキャスティング(未来からの逆算) | ①経営方針 → ②健康経営の推進方針 → ③健康経営の目標(状態目標) → ④アウトカム(KGI) |
| 右側:フォアキャスティング(足元からの積み上げ) | ⑤インプット(施策) → ⑥アクティビティ(行動変容) → ⑦アウトプット(KPI) |
左側で「どこへ向かうか」を描き、右側で、日々の施策が成果にどうつながるかを確かめます。KGIに寄与していない施策は、入れ替えて改善します。
この設計図の鍵は、経営方針からバックキャスティングでKGIを導き、そのKGIをめざして、施策のPDCAを回す部分にあります。ガイドブックの戦略マップは、例示を中心に示されています。当社は、この部分に焦点を当て、具体的に描いて回せる形に整えました。読み順の違いは、9月号の第2回でも触れています。
ここで、健康風土について触れておきます。健康経営度調査票は、健康風土を「健康に関する共通の考え方や行動様式を生み出す、その企業独特の環境」と説明し、詳しくは健康経営ガイドブック2025を参照するよう案内しています。
当社は、各社の経営方針から導いたKGIの、3〜5年後の姿を実現した状態を、その会社らしい健康風土と捉えています。単年度の施策のPDCAが「フロー」、積み重ねてできる姿が「ストック」です。
風土改革チームの役割は、経営方針を健康経営で実現することです。KGIの達成を通して健康風土を創りだし、組織の団結なども高めながら、主にワーク・エンゲージメントの向上に貢献します。
2. 経営方針を健康経営に置き換える:A社の簡易診断
最初の一歩が難しいのは、経営方針を、健康経営の言葉に置き換えることです。
A社は、IT企業です。社員自身が楽しく、余裕をもって働けていなければ、お客様に感動の価値は届けられない。そう考えて、お客様の心を揺さぶる感動価値を生み出すDX集団をめざしています。この経営方針を健康経営の側から捉え直し、健康経営を「働く喜びを最大化する投資」と定義して、推進方針に定めました。
そのうえで、健康経営を通して到達したい姿を、「心の余白」「自己効力感」「共創のコミュニティ」の3つの目標に落とし込みました。さらに、3つを束ねる言葉として、「Fun & Ease(楽しさと余裕)を体現できる社員づくり」というキャッチまで整えています。経営方針から逆算する左側を、ここまで具体的な言葉にすることは、どの会社にも欠かせません。A社の特徴は、その入口を、簡易診断でつくったことです。具体的な言葉で示されたことで、どう描けばよいかが腹落ちし、右側を含めた最終的な仕上げは、自社で行うと決めました。

A社の担当者からは、こんな声をいただきました。
産業保健的な戦略マップであれば、他社の事例などを参考にして描けたが、経営戦略に連動した自社らしい健康経営の設計図は自社だけでは描けなかった(どうしたら良いのか、はじめの一歩が判らなかった)
たたき台として、ゼロからイチを示してもらえたので、この後の細部のブラシュアップは自社でやってみる
A社が使ったのは、当社の簡易診断です。コンサルティングに入らず、比較的早く、フロー図のたたき台をお届けするかたちです。
簡易診断では、企業の公開情報と、担当者へのヒアリングでうかがった経営方針や想いをもとに、生成AIも活用して、短期間でフロー図のたたき台をお作りします。フロー図は当社が考案したツールで、その使い方まで含めて、経営方針の実現を軸にした考え方を、AIに組み込んでいます。出てきた結果は、そのままではなく、当社が確認・調整してからお届けします。たたき台は、自社の言葉で磨き込んでいただくための出発点です。
8月号でご紹介した、現場の声を集めてじっくり描く進め方(8月号の第2回)とは、役割が違います。簡易診断は、速く始めるための入口です。
3. 「回す」仕組み:B社のKGIリーダーとロードマップ
描いた設計図は、回してはじめて意味を持ちます。B社は、当社のコンサルティングに入り、プロジェクトの中で一緒にフロー図を作りました。グループミッションの実践を、健康経営を通じてめざしています。B社の特徴は、フロー図づくりにとどまらず、風土改革チームの立ち上げと、KGIリーダーの活動、社内への展開まで、当社が伴走していることです。風土改革チームは、当社が新たに加えた考え方です。風土改革のプロジェクトでは、当社が、プロジェクト全体の進行を支える役割を担っています。

B社では、KGIごとに「KGIリーダー」を置き、社内の推進委員会のレビューを受けながら、PDCAを回しています。自分たちで回す形をめざしています。フロー図は、経営者と従業員が共有するコミュニケーションツールとしても使われています。
この「回す」を支えるのが、『健康風土醸成ロードマップ』です。9月号の第3回で、使い方は10月号でお伝えするとしていたツールです。『健康経営戦略フロー図』のKGIごとに、1枚ずつ作成します。使い方は、3つのステップです。

- KGIごとに、KGIリーダーを任命する(指名または手挙げ)
- KGIごとにロードマップを1枚作り、そのKGIに属する施策を、行動変容とKPIとあわせて並べて、PDCAを回す
- 経営会議などで、四半期ごとの進捗をレビューする
ロードマップには、KGIと3〜5年後のゴール値(3〜5年後に達成する、健康風土の醸成の目標値です)、KGIリーダー、リーダーにその役割を任せる理由と期待、KGI達成に向けた施策ごとの行動変容とKPI、四半期ごとの計画と実績が並びます。リーダーが責任をもって動かし、経営会議が見守る。この形が、健康風土を「創りだす」土台になります。
『健康経営戦略フロー図』と『健康風土醸成ロードマップ』は、どちらも無償で公開しています(商用利用は不可)。ご利用の際のクレジット表記は、特設サイトでご確認ください。使い方と事例も、特設サイトと健康風土事業のページで紹介しています。
4. まとめ:健康風土は、待つのではなく創りだす
簡易診断で設計図のたたき台を得て(A社)、伴走を受けながらリーダーが回す(B社)。これが、風土改革チームの基本形です。健康風土は、自然に醸成されるのを待つものではありません。KGIを定め、施策のPDCAを積み重ねて、創りだす活動にします。
では、守りの土台である産業保健は、この設計図のどこに入るのでしょうか。
【次回のブログでは】
ここまでは、風土改革チーム(第2層)の話でした。次回は【進化形・着地点編】として、産業保健(第3層)の重点事項も同じ設計図に入れていくC社の考え方と、4層を1年で回す年間スケジュールの例、そして健康経営を経営の仕組みにする着地点をお伝えします。
<Let us hear from you>
あなたの会社でKGIごとにリーダーを置くとしたら、どなたが適任でしょうか。『健康経営戦略フロー図』や『健康風土醸成ロードマップ』を使ってみたい方、簡易診断に関心のある方は、お問い合わせからお声がけください。
橘田 孝(ノストライフ株式会社 代表)。制御機器メーカーで35年にわたり、経営企画、M&A、人材戦略などを担当。経営者や経営企画の視点から、各社の経営方針を実現する健康経営の伴走支援を行っています。