【NOSTブログ‣2026年9月 第2回】健康経営が「担当者任せ」になる理由。あなたの努力不足ではなく、仕組みの問題です

——【構造編】経営方針から導いた推進方針・目標・KGIが、なかなか出てこないのはなぜか

前回は、調査票を書き終えたあとに感じる「疲れた」の正体は、作業量だけでなく、手応えのなさにあるとお伝えしました。担当者が感じやすい壁として、推進体制・経営者・従業員・取り組みの重心の4つを挙げ、経営方針から導いた推進方針・目標・KGI(目標の達成度を測る指標)がなかなか出てこないことが、その背景にあると触れました。

今回は、4つの壁に共通する根っこを読み解きます。結論から言えば、根っこは「健康経営が担当者任せになっている」ことです。そして担当者任せになるのは、担当者の努力が足りないからではなく、仕組みの問題です。

この記事でわかること

  • 4つの壁に共通する根っこは、「担当者任せ」であること
  • 推進方針・目標・KGIが、なかなか出てこない3つの構造
  • 守り(産業保健)と攻め(健康風土の醸成)を分けて考える視点

目次

  1. 4つの壁に共通する根っこ
  2. なぜ、経営方針から導いた推進方針・目標・KGIが出てこないのか
  3. 攻めまで、担当者が一人で背負わなくていい
  4. まとめ:変えるのは、担当者ではなく仕組み

1. 4つの壁に共通する根っこ

4つの壁を並べてみると、共通点が見えてきます。

推進体制が全社の流れにならないのも、経営者に言葉が届かないのも、従業員の取り組みが万年化するのも、重心が施策の出来栄えにとどまるのも、根っこは同じです。健康経営が、担当者の持ち場の仕事になっているのです。

担当者任せの状態では、取り組みは、担当者の見える範囲に収まります。その範囲は、多くの場合、産業保健の施策です。その結果が、前回お伝えした手応えのなさにつながります。

ここで大切なのは、担当者任せは、担当者のせいではないということです。当社の見立てでは、多くの会社で、健康経営は産業保健や人事の担当部署に任せる形で始まります。任せるのが自然な形で始まったからこそ、そのまま続いているのです。

2. なぜ、経営方針から導いた推進方針・目標・KGIが出てこないのか

当社は、推進方針・目標・KGIを、経営方針から導き、経営が一度きちんと定めたうえで、3〜5年かけて育てていくものと捉えています。毎年つくり直すものではなく、毎年のレビューで妥当性を確認しながら据えていくものです。

では、それがなかなか出てこないのは、なぜでしょうか。当社は、次の3つの構造があると捉えています。

① 回答の場が、産業保健の中に閉じている
調査票の設問には産業保健の施策に関するものが多く、回答も産業保健のメンバーが担います。そのため、健康経営について考える場そのものが、産業保健の中に閉じやすくなります。経営の場で議論される機会が、生まれにくいのです。

② 経営方針から導く役割は、担当者の外にある
経営方針をどう実現するか、どんな状態をめざすか。推進方針・目標・KGIを決めることは、経営の仕事です。担当者に「経営方針から導いて」と求めるのは、本来の役割を超えた期待になります。そこまでの役割は、担当者一人に任されるものではありません。

③ 物差しが、KGIではなく施策になっている
経営会議や中期計画など、会社が日頃から経営を語る場に、KGIが登場しない。すると、取り組みを測る物差しは、手元にある施策の参加率や参加者数に寄っていきます。

読み方も、影響していると考えています。ガイドブック(2025年3月版)の戦略マップの記入例(図表26・28・29)は、施策から始まり、効果、目標へと、左から右に読み進める形で示されています。

経営方針や推進方針・目標も図に記されていますが、施策から読み始めると、そこは遠くなりやすい。当社は、この読み方だと、施策の参加率や参加者数が活動の中心になりやすいと捉えています。

当社が無償公開している『健康経営戦略フロー図』(ガイドブックでいう戦略マップ)は、この読む順序を変えます。左側は、経営方針から推進方針、目標、KGIへと逆算する展開です。右側は、施策から行動変容、成果へと積み上げる展開です。2つの流れは、中央のKGIで出会います。詳しくは、特設サイトで紹介しています。

この3つは、担当者の努力では変えられません。だからこそ、悩みを担当者個人の問題で終わらせず、仕組みの課題として捉え直す必要があります。

3. 攻めまで、担当者が一人で背負わなくていい

もう一つ、担当者の負担を重くしているのが、健康経営のすべてを産業保健の担当者が背負っている状態です。

健康経営には、2つの役割があります。守りと攻めです。攻めと守りの考え方は、8月号の第3回でも取り上げました。ここでは、担当者の視座から整理します。

守り攻め
中身産業保健健康風土の醸成
ねらいプレゼンティーイズム(出勤はしているが、健康問題のためにパフォーマンスが上がらないことによる損失)やアブセンティーイズム(健康問題によって会社を休むことによる損失)を減らす土台をつくるワーク・エンゲージメント(仕事にやりがいを感じ、活き活きと取り組めている状態)を高め、経営方針の実現へ進む
進め方自社の働き方や社員構成に基づいて整える年度ごとの施策を積み上げ、蓄積される企業の資産(健康風土)にする
担い手産業保健のメンバー経営の視座をもって進める体制

産業保健は、守りの土台として欠かせません。そして、産業保健のメンバーは、その守りに集中してよいのです。

産業保健は、健康経営という言葉が広まる前から、企業が取り組んできた大切な分野です。その土台を、自社の働き方や社員構成に合わせて整え続けることは、これからも変わりません。ただ、そこだけを突き詰めても、毎年同じ作業の繰り返しになりやすい。攻めは、経営の視座をもった体制で進めるものです。担当者が両方を一人で背負う必要はありません。

4. まとめ:変えるのは、担当者ではなく仕組み

4つの壁の根っこは、健康経営が担当者任せになっていることでした。そして、担当者任せになるのは、担当者の努力不足ではなく、仕組みの問題です。

経営方針から導いた推進方針・目標・KGIを、経営が一度きちんと描く。産業保健のメンバーは守りの土台に集中し、攻めは経営の視座で進める。この分担が見えれば、担当者が一人で背負わなくてよい道が見えてきます。

担当者の悩みは、会社を変える最初の一歩になります。

【次回のブログでは】
では、担当者は何から始めればよいのでしょうか。次回は【実践編】として、新しい年度の計画の前に点検したい「3つの問い」と、経営層に話を持ちかける最初の一言を紹介します。

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橘田 孝(ノストライフ株式会社 代表)。制御機器メーカーで35年にわたり、経営企画、M&A、人材戦略などを担当。経営者や経営企画の視点から、各社の経営方針を実現する健康経営の伴走支援を行っています。

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