【NOSTブログ‣2026年7月 第1回】その調査票、「誰のため」に書いていますか?認定マーク取得が目的化する「報われないループ」からの脱出

毎年この時期が近づくと、健康経営のご担当者から決まって聞こえてくる言葉があります。

2027年度の「健康経営優良法人」認定に向けた健康経営度調査は、2026年8月17日から回答期間が始まります。設問の素案もすでに公開され、多くの担当者にとっては「また、あの試験(テスト)が始まる」という気分になるタイミングでしょう。

ですが、少し立ち止まって考えてみてください。その膨大な調査票を、あなたは「誰のため」に書いているのでしょうか。認定マークを取ること自体が、いつのまにか目的になってはいないでしょうか。

【今月の連載でお伝えしたいこと】
「調査票の季節」だからこそ、健康経営の”目的”を自社の手に取り戻していただきたい。
健康管理の延長(守り)ではなく、自社の経営方針を実現する投資(攻め)へ。
この転換を、3回の連載で WHY(何のために)→ WHO(誰が動かす)→ HOW(どう描く) の順にお伝えします。

その第1回となる今回は、多くの企業が陥る「報われないループ」の正体を、「健康管理」と「健康経営」の決定的な違いから解き明かしていきます。


目次

  1. 担当者を疲弊させる「報われないループ」
  2. なぜ「表面的なイメージ」に流されてしまうのか
  3. 健康管理は「土台」、健康経営は「攻めの投資」
  4. 経産省のガイドも、実は「本質」を語っている
  5. まとめ:目的を取り戻すことから始める

1. 担当者を疲弊させる「報われないループ」

一生懸命に調査票を埋め、無事に認定マークを取得する。本来なら誇らしいはずのその成果が、なぜか報われない——。そんな声を、私たちは数多く伺ってきました。

具体的には、こんな状況です。

  • 現場の従業員からは「会社がマークを取るために、やらされているだけ」と冷ややかに見られる
  • 経営層からは、健診の受診率やストレスチェックの実施状況を報告しても「それが経営とどう関係あるのか」という反応が返ってくる
  • いつのまにか、順位を上げることや認定を維持すること自体が目的化し、健康経営は「毎年かかるコスト」と見なされてしまう

そして一番つらいのは、担当者——多くは産業保健チームの方々——が 「自分たちばかりが頑張っていて、社内で浮いている」 という孤独感を抱えてしまうことです。

健康管理への追い風をチャンスと感じる一方で、不慣れな調査票の記入が重い負担としてのしかかる。
この「報われないループ」は、担当者個人の頑張りが足りないから生まれるのではありません。もっと構造的な原因があります。

2. なぜ「表面的なイメージ」に流されてしまうのか

多くの人が思い浮かべる「健康経営」の4つのイメージ

その根本にあるのは、健康経営に対する「一般的なイメージ」です。
多くのビジネスパーソンは、「健康経営」と聞いて次のようなものを思い浮かべます。

  1. 健康管理・病気予防(産業保健のイメージ)……定期健診、ストレスチェック、生活習慣病対策など
  2. 福利厚生の充実(ウェルネスのイメージ)……ジム利用補助、社員食堂のヘルシーメニュー、健康グッズの配布など
  3. 労働環境の改善(労務管理のイメージ)……残業削減、有給取得の推進など
  4. 認定マークの取得(ブランド・採用のイメージ)……健康経営優良法人のロゴ取得による対外アピール

これらはいずれも大切な取り組みです。しかし問題は、「何を実施しているか」という手段にばかり目が行き、「それが何の目的で動いているのか」が見えにくくなってしまうことにあります。

「表面的なイメージ」に流されてしまう3つの構造的な罠

なぜ、これほど多くの企業が本来の目的を見失ってしまうのか。
そこには、いくつかの構造的な「罠」が存在します。

  • 認定取得の「目的化」と横並び意識:「他社もやっているから」「採用で不利になるから」という意識から、調査票の点数を上げること自体がゴールになってしまう
  • 支援サービス市場の偏り:市場の支援サービスの多くが産業保健(病気を防ぐ)の専門家によって提供されており、おのずと個人の健康管理アプローチが主流になる
  • 「社会的な健康」の測りにくさ:健診データのように定量化しやすい肉体的な健康に比べ、「自分の居場所がある」「助け合える」といった社会的な健康は目に見えにくく、後回しにされがちになる

こうして、自社の経営戦略や本業の成長とどう結びつくのかという肝心の論理が浸透しないまま、施策だけがパッチワークのように増えていくのです。

3. 健康管理は「土台」、健康経営は「攻めの投資」

ここで、はっきりと区別しておきたいことがあります。「健康管理」と「健康経営」は、似ているようで、まったく別のものだということです。

法令に基づき従業員を病気から守る「健康管理(産業保健)」は、健康経営という言葉が生まれるずっと前から存在してきた活動です。労働安全衛生法をはじめとする法令遵守の一環であり、企業として当然果たすべき責務です。社員を健康に保つこと自体は、何よりも大切なことです。

しかし、それは健康経営の 「土台」ではあっても、健康経営そのものではありません。

健康管理(産業保健)健康経営
位置づけ守り(法令遵守・責務)攻め(経営・投資)
目的従業員を病気から守る経営方針の実現・本業の成長
捉え方コスト人的資本への投資

本質的な健康経営とは、その土台の上に立って、自社の経営方針を実現するために、従業員というもっとも重要な無形資産(人的資本)に投資し、本業の成長を加速させる成長戦略そのものです。

従業員のウェルビーイングに投資することで、組織を活性化させ、生産性を高め、イノベーションを生み出し、最終的に企業価値の向上につなげていく。健康経営は、削るべきコストではなく、未来のリターンを生む「投資」なのです。

4. 経産省のガイドも、実は「本質」を語っている

ここで誤解のないよう申し添えておきます。私たちは、経済産業省がリードする健康経営優良法人制度や、そのガイドである『健康経営ガイドブック2025』を否定しているわけではありません。むしろ逆です。

健康経営優良法人認定制度では、「健康経営とは」として、上図を示して、健康経営とは自社の企業理念等を実現するための人的資本投資であると明言しています。

また、『健康経営ガイドブック2025』を丁寧に読み解けば、「経営方針から出発する」「100社あれば100通りの健康経営がある」 という、まさに本質そのものが語られています。

問題はガイドの中身ではなく、その受け取られ方 にあります。認定を通ること・順位を上げることばかりに意識が向くと、せっかくガイドが指し示している「経営方針から考える」という一番大切な出発点が飛ばされてしまう。

ガイドは、あくまで道しるべ(ガイド)です。 ガイドをなぞることではなく、ガイドが指し示す方向——自社の経営方針からじっくり考えること——こそが、私たちが取り戻したい原点なのです。

5. まとめ:目的を取り戻すことから始める

社員を健康に保つことは、企業としての大前提です。しかし、そこで立ち止まってしまえば、健康経営はいつまでも「コストのかかる事務作業」のままです。

一歩踏み出して、自社の本業を強くするために健康経営を活用する。 認定は、その本質的な活動を進めた結果として、あとから付いてくるものです。

「調査票の季節」だからこそ、目の前の設問に追われる前に、「そもそも、これは何のためにやっているのか」 という目的を、もう一度自社の手に取り戻していただきたいのです。その目的が定まれば、健康経営は担当者一人の孤独な戦いから、会社全体の力へと変わっていきます。


次回は、【WHO・組織編】として、この「攻めの健康経営」を実際に「誰が」動かすのかに焦点を当てます。

産業保健チームだけに背負わせている限り、あの「報われないループ」からは抜け出せません。孤軍奮闘を終わらせ、経営・現場・事務局が連動して健康経営を自走させるための「4つの層」という推進体制を解説します。

まずは、貴社の「モヤモヤ」
をお聞かせください。

100社あれば100通りの健康経営があり、抱える課題も各社各様です。
「認定はとれたが、次の一手に迷っている」「自社に合った進め方がわからない」など、モヤモヤを抱えたまま立ち止まってほしくない。
まずは頭の中を「スッキリ」と整理して、次の一歩を踏み出すきっかけにしていただきたいからこそ、
初回相談は無料(オンライン・60分)で承っています。

具体的なお悩みはもちろん、思考の整理や「壁打ち相手」としてのご利用も大歓迎です。
その後の無理な勧誘などは一切ございませんので、どうぞリラックスしてお申し込みください。